COLUMN

Adobe × TIS  Trend & Illustrations

2023.10.31

Trend & Illustrations #19/IC4DESIGNが描くRetro Active

アドビではビジュアルのニーズを様々な角度から分析を行い、そのトレンド予測をトレンドレポートとして毎年発表しています。
ビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画「Trend & Illustrations」。
密度が高くユニークな世界を作りだすIC4DESIGNが、2023年のビジュアルトレンドから「Retro Active(進化するレトロスタイル)」を担当。同社代表カミガキヒロフミさんに伺いました。

プロフィール


 
IC4DESIGN(左から杉葉子さん、今村ありささん、代表のカミガキヒロフミさん、松原大介さん)


IC4DESIGN
 
広島を拠点として、日本をはじめ、アメリカ、ヨーロッパ、中東など国内外を問わず活動。
密度が高く遊び心のあるイラストレーションを手がける。カンヌライオンズ、ONE SHOW、ドバイLynxなど、数多くを受賞している。代表作のひとつ、絵本『迷路探偵ピエール』は30言語に翻訳され、32カ国以上で出版されている。

https://www.ic4design.com
https://www.tis-home.com/ic4design/

自分たちらしさが出るテーマを選んだ

ーービジュアルトレンドのテーマから「Retro Active(進化するレトロスタイル)」というテーマを選ばれた理由からお願いします。

 僕らの普段の制作内容に一番合いそうだったし、表現として面白いことができるだろうと思ったんです。ストックイラストレーションという、素材として登録しておくと、あとは自由にクライアントが使うというこのシステムの中で、一番使用頻度が高そうなテーマじゃないかとも考えました。

ーー普段制作されている作品の延長線上で作れるということでもあったんですか。

 そうですね。以前「キャプテン・マーベル」という映画のビジュアルをイギリスの映画館から依頼されて、90年代が舞台の映画なので、当時のカルチャーや車のディテールを描いたことがあったんです。それに僕(カミガキさん)自身、90年代が青春で、スケートボードしたり、女の子をナンパしたり、バンドやったりと遊びまくってたので、自分の思い出をパッケージングして、絵として表現するというのが他のテーマと比べても魅力的でした。

 同時にIC4DESIGNとして、真面目にAdobe Stockに取り組んでいくきっかけになる仕事なので、どういうものにすればいいのかを考えました。僕らのイラストレーションの特徴はいろんな要素がたくさん入ってること。レゴで遊ぶような感覚があって、絵本にしても、すごく要素が多い。でも目は点々だけで表現したりと余白は作っているんですが。

 Adobe Stockにいろんなパーツを登録してバラ売りするというのは、非常にレゴのスタイルに近いなと思って。使用する側は必要なパーツだけを個別に購入すればいいし、自由に組み合わせられる。それをどうやって面白くできるかと考えたときに、レトロ、90年代というのはいい味付けになると思いました。

ーーレゴの世界というのはすごくよくわかります。

 今後はビジネスシーンだったり、道路工事のシーンだったり、別の具体的なテーマでも作ることができると思います。今回はゼロからの出発ではなくてテーマがあったから内容を膨らませることができましたし、ストック素材に対して新しいエッセンスを加えられたと思います。一般的なビジネスシーンを作るよりも、90年代っていう味付けをしたことが、結果的に良かった。クリエイティブって自分たちだけで生み出すだけのものじゃなくて、いろんなものが合わさるものだから。
 

パーツの組み合わせは無限大

ーーこの背景がピンクのものが最終形と考えていいですか?

 すべてのパーツが揃うとこれができるというものですね。他の画像は、単品で販売する場合の組み合わせ例でもあります。この方が使い勝手がいいだろうと。
 
<中心にあるのが完成の一例。周辺は構成パーツ>

The Centered Self



ーー完成形を想定して制作し、その後、それぞれのパーツに分けていくのでしょうか?

 そうです。スケートパークみたいにキットとしてパーツをまとめることもできます。



ーー完成形に近づけようと思ったらパーツがいっぱいあればいいし、パーツごとでも楽しめる。

 ゆくゆくは別の絵になってもいいな、作ってもらえたらいいなと思っているくらいなんです。世界中の人が見てくれたら、そんなことも起こるかもしれない。



ーー横長の作品も、パーツの組み合わせでできる実例ですね。

 そうです。パーツ組み換えの一例です。メインの建物の土台にRetro Activeと入れているんですが、使用する際に、会社名にしてもいいし、スローガンにしてもいいし。そういうアレンジもしてもらえるように考えていました。
 
<パーツの組み合わせ例>

The Centered Self



ーー利用者目線があって、それを楽しんでいるのが伺えます。

 Adobe Stockって、僕らにとってはすごく夢があるんです。10年以上前から海外のクライアントを開拓してきたんですけど、やりとりや契約書が煩雑で大変なんです。絵本を世界に売り出すとか、イラストレーターとしてアメリカと仕事するのって本当にハードルが高い。でもAdobe Stockを通せば、自動的にいろんな国の人が見てくれるわけでしょう。もちろんストック自体が大海原なんで、使用される確率は低いのかもしれないけど、スタートのハードルは低い。Behanceも同様ですけどね。
 自分の作品がストックされて自由に使われることに対して積極的でないイラストレーターも多いでしょうが、Adobe Stockだったら、いきなり世界がマーケットになる。それもほぼ全世界。これは興味がわきますよね。
 
<様々なパーツ>

The Centered Self

The Centered Self

The Centered Self

The Centered Self

世界に向けた作品作り

ーー世界に向けてということで制作上、気をつけていることはありますか?

 もちろんあります。それほど細かくケアしているわけではないんですが、例えば肌の色とか。僕ら何気なくベージュ色を肌色って言いますよね、子供の頃から。人間の肌を塗るときって、例えばCMYKでいうとマゼンダ20のイエロー30の前後と決めたらダーッて人物を一気に塗っていたんですけど、海外の仕事をやり始めたときに、これじゃいけないって。クライアントによってはマイノリティを前に出して欲しいとか、肌の色は20種類以上使えとか言われることもあるんです。車の通行が左右どちらかとか、お酒、タバコを入れないとか。日本の仕事以上にケアしなきゃいけないことはあるかもしれませんね。
 

The Centered Self

「QUEZZLE ~スペース・アドベンチャー~」 パズル
UNIDRAGON/2022年


ーー海外の仕事を経験されてきたからこそのお話ですね。逆に積極的に加えてこうというものはあるのですか?

 それはないんですが、「ごちゃごちゃさせる」っていうのがうちのスタイルなんで、できるだけ盛りだくさんにしてあげようというのは基本姿勢としてあります。家系ラーメンの全部のせみたいな。

ーーそうするとどんな人にとってもどこかに好きになるポイントが出てくるものでしょうか?

 それはないと思います。絵柄で好きか嫌いかがわかれちゃうから。本筋から離れるかもしれないんですけど、海外に進出しようとしたときに、ニューヨークを目指すとすると、既にそこにはいろんな人材が集まっていて少しぐらいの個性では仕事をとることはできない。どうやったら仕事がとれるかを考えたら、人一倍苦労するというのが僕たちの答えだったんです。それがわかりやすい形で出たのが他のイラストレーターの10倍密度を上げるということだった。そこからスタートしたので、その呪縛から抜けきれてないんです。そんなことやってたら時間がかかるんで、結局儲からないですけどね。
 ただ絵本の場合はマーケットが大きくなって、発行部数が増えるほど、時間をかけても元が取れる。今『迷路探偵ピエール』シリーズは全世界累計で96万部ぐらいなので、もうすぐミリオンミリオンセラーになるかもしれません。
 

The Centered Self

『迷路探偵ピエール ~うばわれた秘宝を探せ! 』各国版
日本版(永岡書店)は2014年
各国版に合わせて表紙も少し異なる。


ーー作品を拝見すると、仕事ごとに一つの新しい世界を作っていると感じます。

 ありがとうございます。実際大変なんです。家を何十軒か描くとして、一軒ずつデザインしなきゃいけない。そこを考えるのが毎回しんどい。だからこそ、Adobe Stockで僕らの絵が認知されて最終的にブランドになっていければ、同じパーツや絵がいろんなクライアントで組み合わされて使われても平気になるでしょう。世界観を売っているということになれば理想だと思ってます。

ーー今後の展望を教えてください。

 『迷路探偵ピエール』がシリーズで3巻出ていて、今4巻目を制作中です。5巻まで出たら、本屋の棚に収められたときにある程度の幅を占有できるので、販売部数に影響が出るんじゃないかなと思っています。とりあえず生きてる間に5巻まで出したい。
 4巻目は日本で2025年初めに出て、世界的にはその半年後くらいの予定です。日本で出た後に各国の別の出版社にプロモーションして版権の売買があるので、完成後半年から1年かかるんですよ。アプリやゲームだと、時間差がなく、いきなり国境を越えれるんですけどね。
 イラストレーターっていう職業が成り立ったのって、ほんの数十年とかのレベルでしょう。もちろん同じようなことをして生計を立てた人は100年前にもいましたけど、職業として確立されたのはごく最近じゃないですか。そう考えるといつなくなるかわからないですよね。だからイラストレーターにこだわりを持つ必要はないし、会社を持続させるために収益を考えるといろんなチャンネルでお金が入るようにするのが心の安定を作るんだろうと。
 ですからイラストレーションや絵本に限らず、革細工でもフィギュアでも動画でも、何にもこだわらず物作りをしたいですし、いろんなことをすることで、周りとのコミュニケーションにこの場所(事務所)を使いたい。老後、いろんな人がここに訪ねてきて、一日中馬鹿話するみたいな(笑)。
 
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